旅の子供
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始まりの頃の記録
学院の図書館で、原稿用紙を前に机に突っ伏す爪族の少女が一人。
古い本の匂いと午後の陽ざしの暖かさに骨抜きになっているような状態だ。
小さい頃の作文を書いて来いとか言われたってにょー
まだ私だって小さいと思うのだがにょ……
そりゃぁ、天才少女のペルにょんに比べたら全然大きいけど。
錬金術の学校に入ってから知った、色々な種族の人達
特に、魚のにおいがするのに食べ物じゃない人種など見たこともなかったものだから、うっかり同じ日に入学してきた「マーマン」という種族の娘さんに(食)欲情?などしたものだが。
そんな彼女が目の前にいて、昼ご飯を食べたばかりなのに、おなかがぎゅるぎゅるとなってくる。
これは恋に違いない。
きっと。
マレマロマ先輩を見ると、もっと胸がキュンキュンするのは、ダイレクトに魚を連想させるからだろう。
そして、それも恋に……
「居残り、まだ終わらないんですか?」
小首をかしげ、ルトヴィカの顔を覗き込むセルティーヌの足元をちらりとのぞく。
『いつも不思議なにょだが、陸でどうやって足に変えているのだろうにょー』
すらりとしたニンゲンの足をじっと見てしまう。
これでは恋も半減であった。
「……小さい頃のことをかけとか言われても、何を書けばいいのかわからないにょよね……」
「お家のこととか?」
「家のこと……」
ぼそっと呟くと、下を向いて小刻みに震えだす
「あらあら……もしかしてホームシック……じゃなさそうね」
泣いているのかと思って顔を覗き込むと、どうやら違う種類の震えのようだ。
「家……家……」
呪詛のようにつぶやきはじめたルトヴィカに余計な事を言ってしまったという空気を感じ取る。
「あー、お邪魔にならないように退散するわねーーー」
少々顔を引きつらせながら逃げるようにフェイドアウトしていくセルティーヌを見ながら魂の抜けたような溜息。
「……いくらなんでも、家にニート大好きグータラ主婦がいるとか、その悪魔大王な主婦は外ではカタストロフィー主婦とかよばれてたとか、魔女の娘と呼ばれて石を投げられたことがあるとか書くわけにもいかないしにょー」
家庭内は基本的に罵詈雑言の応酬だったとか。
普通の家みたいな部分はないのか探しても、どうも普通の家が想像を出来ない。
捏造でもしようか考えても到底考えつくものではなかった。
席でジタバタしていると図書館の司書さんに軽く小突かれて、静かにしましょうと注意を受ける。
「うーーー」
原稿用紙の文頭を書いては消し書いては消し、しわくちゃにしながら唸っている姿は、はたから見たら、まるで難しい調合のレシピを考えているようだ。
「そういえば」と家の近所にプチ家出をした時に、母親が見たこともないようなすごい形相で迎えに来たことがあったことを思い出した。
泣きながら馬鹿馬鹿言って、でも、抱きしめられた時は一緒に泣いてしまったような、甘い記憶。
「あの人がそんなことするわけないだろうににょー」
どんなふうに脳内改ざんされているのか自分でもわからない。
本当にあったのかすら思い出せないのはその後熱を出して何日も寝込んでしまったせいかもしれないし、あまりに普段通りの母親の姿のせいだったからかもしれない。
あんなでも父親とは、ばかっぷるらしいので幸せならばどうでもいいことではある。
まぁ、でもたまには親孝行でもしておくべきなのだろうか。
この間日記に、家出をしてきたと書いたら、翼族のイヴにょーや鱗族のメイエルさんにも心配されてたし。
「手紙でも書いてみるかにょ」
いくら悪名高い森の杜の家への手紙でも、森の入口までは御進物とかいう食料と一緒に届けてくれるだろう。
そんなことを考えながら、夢の世界の淵を旅するのであった。